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日本茶の可能性を広げるカフェ

更新日:2022年7月29日


ある時期からお茶は日本を代表する飲み物となった。海外でも、「Japanese tea」は日本初の「ブランド品」だった。二十世紀以降の日本においては、主にコーヒーを提供する喫茶店やカフェは、都市空間を支配するようになった。喫茶店やカフェに比べると、緑茶・ほうじ茶の日本茶専門の喫茶店は驚くほど少ない。人気のあるお茶の喫茶店は、主に英国式の紅茶専門店だった。そして、二十一世紀。日本茶の喫茶店市場はマーケティングのチャンスとなったと言える。「green tea cafe」が世界の都市に現れた。 彼らの参入戦略は主にグローバルコーヒー文化を倣うことだ。そして、オンラインメディアは重要な販促手段となる。現在においてこのトレンドはさほど新しくはないが、西荻窪で日本茶のリーダー的存在が、日本茶専門店Saténである。


株式会社抽出舎のCEO、小山和裕(こやま かずひろ)さんは藤岡響(ふじおか ひびき)さんと共に、2018年に日本茶とコーヒーのスタンド「Satén japanese tea」を立ち上げた。


なぜ西荻窪?


小山さんにSaténを立ち上げたきっかけをうかがった。

「(パートナーの)藤岡 響はブルーボトルでヘッドバリスタをやっていました。立ち上げから三年間くらいやって、で、自分も独立するっていう感じで。じゃあ一緒に日本茶スタイルのお店をやろうっていう話になって、物件を探してたらたまたまここが空くっていう話が出て。で、藤岡が実は西荻出身で、僕も実はおばあちゃんの家がすぐそこにあるんですよ。で、もともとUNI STAND(ユニスタンド)っていうのがあったので、そこのお店のお客さんもまあここに移転しても来やすいし。藤岡も地元で僕も西荻を知っているので、お客さんの層とかも大体把握できていたので、ここだったら絶対お客さんが来るよね、ってのがあったのでここに決めたっていう感じですね。」


都内にはすでに「茶カフェ」や緑茶が飲める甘味処などがある。しかし、急須で入れた緑茶だけでなく、抹茶を販売するティースタンドというものは、西荻では初だ。

「そもそも日本茶スタンド、まあ日本茶カフェっていうのが少なかった。中でも、抹茶をここまで本格的に出している所って今でも少ないんですけど、オープンした四年前は本当になかったんです。そこで結構キャッチーな抹茶ラテや抹茶プリンでお客さんが来てくれたっていう感じですね。」


小山さんも藤岡さんも西荻窪ととても近い関係にある。

「西荻を選んだ一番の理由はたまたまここが空いたっていうのが一番ですね。でも藤岡の地元でもあるし僕も赤ちゃんの時からここを知っているので、ここに決めました。」

「前って居酒屋さんだったんです。ダンボールっていう居酒屋さんだったんですけど。まだこの居酒屋が営業している時に僕と藤岡が食事にきて、ここの内装ならそのまま使えるんじゃないかって…。実はここレイアウトそのままなんです。ここにあったダクトとかここにあったお酒の棚とか全部とっぱらって。冷蔵庫とかこの台はそのままなんですよ。で、木の台に黒い和紙貼っているんですけど、まあそういうちょっとした加工はしていますけど、そのままいけるんじゃないかっていうので。工事費浮かせることが出来るので。で、このままのスタイルでやるっていうのがもう来た時からイメージができたので、すぐ物件を押さえに行ったって感じですね。」


小山さんの店づくりのコンセプトは、「ローカルを意識したスペース」だそうだ。

「スターバックスさんみたいにチェーン展開をしていくスタイルより、完全に地域に根づいたお店で一つのコンセプトをやっているので、店舗の拡大って言うのは…一応計画はしていますけど、それこそ十店舗二十店舗というのではなくて、本当にローカルに根付いたっていうのを考えてますね。」


「西荻らしいけど西荻らしくないんで、うちのお客さんは多分七−八割は外のお客さんですね。」

オープン当初から女性のお客に人気があった。特に東京女子大の学生からは、SNSで注目された。

「そうですね。オープン当初から嬉しいことに、まあ僕も吉祥寺でやってましたし、藤岡もブルーボトルのヘッドバリスタっていう肩書きがあったので、結構業界の方とかが来ていただいたりとか、メディアに取り上げていただいたりしてたので…。そうですね。あとは一番だとは言えないですけど、東京女子大の子達がちらほら来るようになったら、誰々が来たから、って言うので。それこそインスタで取り上げられて、一気に人気が出て、それで結構女子大生が来るようになりました。それも今ちょっと減った感じはしますけど、でも七−八割は二十代前半の女性が多かったり、今だと十代の子達も来るようになりましたね。」


コーヒー業界からお茶業界へ

今では誰もが知っている日本茶の抹茶を使った抹茶ラテ。広めたのは、世界的なチェーン店であるスターバックスである。

「まあ以前まではスターバックスの抹茶ラテくらいがメインだったんですよね。いわゆる抹茶のドリンクというのは。ただやっぱりあれが甘いスイーツ系じゃないですか。なので、そういうのが苦手な方が、うちのは砂糖が入っていないのでそれで飲めるようになったとか。全然違うっていうことも聞きましたね。」

「オープンしてから二年くらいは抹茶専門店ってインスタとかだとよく書かれてたんですよ。抹茶専門店のサテンさんに行ってきましたとか。僕らとしては抹茶専門店じゃなくて日本茶専門店なので雑誌とかの時は修正してもらいます。」


Saténで人気のメニューをうかがった、

「抹茶ラテですね。ずっとですね。やっぱりそっちの方が見た目もキャッチーですし。味わいもいいので。最近、三年超えてから、緑茶とか抹茶のストレートをオーダーしていただける方が増えてますね。」

本来の日本茶としての飲み方、ストレートの人気も上がってきているようだ。

そして日本茶に合うメニューも出している。一番人気の食べ物は?

「あんバタートーストになりますね。最初の頃はサンドウィッチをやってたんですよね。でも食べる方が少なかったので、今、絞って絞って四種類。まあ、桜は季節のものになるので三種類ですね。スイーツはプリンと最中(もなか)で、あとは焼き菓子ですね…。プリンはここで仕込んでいますし、最中も皮の部分とあんこの部分は別々で、オーダーが入ってから作ってますね。このスタイルはほぼ変わってないですね、この四年間。」


コーヒー業界とお茶業界はどうちがうのだろうか。 

「全く同じです。ドリンクを作って、販売して、あとはうちの場合だと卸を売っているので。コーヒーでも同じですね。」


抹茶のラテとコーヒーのラテは、抹茶とコーヒーの違いだけで他は同じように感じるが、バリスタの立場から作るときの技術に違いがあるのかをうかがった。

「考え方は一緒ですね。だけど、求められる技術が少し違いますね。コーヒーの方はもうスケールでグラムを測るとか、グラインダー(コーヒーミル)で一定にするとか、濃度計で濃度を測ったりとか、そういうロジックが整備されているんですけど、お茶はスケールを使うって言うのがそもそもないので、スプーンで何杯って言う測り方をしますね。最近はお茶も測ったりしますが、昔はほぼほぼなかったですね。」

Saténでは、ラテを作る際の牛乳にもこだわりがある。小山さんはこう教えてくれた。

「うちは、コーヒーとお茶に使う牛乳を分けてます。なぜかと言うと、抹茶の風味をいかに残すかっていうのが結構課題で。コーヒーみたいに味も香りも濃いわけではないので。抹茶っていいものになればなるほど旨味とか香りは強いんですけど、牛乳に混ぜると負けちゃうんですよ。抹茶って抽出物じゃないんで、粉を溶かしたものなので、口の中でざらつきが残るので。抹茶に合う牛乳十種類、探しました。でも逆に抹茶に使ってる牛乳はコーヒーには合わないので…。」

とはいえ、コーヒーを飲まれるお客は比較的少ないとのこと。

ところで、カフェや喫茶店の商品単価は基本的にワンコインが多い。その中でどのように売り上げを上げているのか小山さんにうかがった。

「卸とか物販とか、茶葉で売り上げ、っていうのが比較的多くなってきてますね。コロナの前はお店の売り上げの十%もいかないくらいだったので。茶葉の売り上げだったり、器が最近買っていいただいているので、」

ただ、お茶はコーヒーよりも賞味期限が長い。物販の際、そこが検討事項となっているようだ。

「やっぱり客単価が低いので、そこから考えると、こういう物販。茶葉とかは無くなったらまた買いに来るリピートのお客さんがいるので、そこがいかに取れるかっていうところですね。ただ、コーヒーとお茶の一番の違いは、この物販が動きづらいっていうところがありますね。コーヒーも多分売ろうと思えば難しいんですけど、コーヒーって賞味期限が短いので。焙煎してから二週間くらいでピークを迎えて一カ月ももたないんで。ちゃんと飲む方は月一くらいのサイクルで買いに戻ってくるので。でも茶葉の場合はもっちゃうんで。ちゃんとジップロックで封して冷蔵庫で保管すれば永久的にもっちゃうんで。なくなるスパンが長いんですよ。お茶はリピートになりづらいっていうのはすごい感じますね。そこは僕も、両方(コーヒー店とお茶店)で働いててすごいと感じましたね。」

「だからお茶業界は、ある意味囲い込みって言われる営業スタイルだった。それがサイクルが回らなくなってきているので、その、売り上げが上がらないっていう状態になってきているので。それは業界の中でもすごい話題になっているんですけど。」 


オープンなデザイン

Saténの店舗はオープンなデザインだ。一部の席は道に面している。外に面している席は、どのぐらい使われているのだろうか。そして、どの季節に一番使われるのだろうか。

「多いかって言われると、少ないですね。今このオープンの状態で座ってる方も、中が空いたら中に行きたいっていう方が多いですね。でも好んで外に座られる方もいらっしゃいますね」

「やっぱり中がいいっていう方が多いですね。時期的なこともあると思いますけど。もうちょっと暖かくなったら外に出られる方もいますね。でも短いですね。外を使う期間は。三、四、五、六月くらいまではオープンにしているんですけど三十度を超えてくると開けられなくなるので、ここを閉めて冷房をかけていますね。十月と十一月はまた開けるんですけど、また寒くなったら閉めてますね。なので、半年あるかないかしか開いてないですね。」

「テラスで何か飲む、食べるっていう習慣はないですよね。他のお店とか行っても結構外の席も囲われてたりするので、ちょっと見にくくなっているので、外で開放的に、っていうのはあまり。恥ずかしいって思うのかもしれないですね。でも最近の若い方はあまり気にしないと思いますね。」


コロナの影響

コロナが及ぼした影響は、飲食の業界に対して最も大きかったといっても過言ではない。その中、驚くことに、Saténは2020年の三月、飲食のみで過去最多の売り上げを上げた。

「そうですね、2020年になったときはやばかったですね。ガンって落ちて、逆に2020年の三月は、コロナがちょっと騒がれ始めた頃は実は過去最高の売り上げを飲食だけで、物販とかなしで叩き出したんですよね。なので、ずっと休日みたいな営業をしていました。お客さんが途絶えることがないように来ていましたね。その時、観光地に行かないでください、ってなってたので、新宿とか吉祥寺から人がいなくなって、逆にこういうローカルなお店に一気に来始めて。西荻窪に人がすごい来たんですよね。その時、ちょうどインスタとかでもバズってて、三月はすごい売り上げがいって、逆に四月緊急事対宣言が出た時に、志村けんが亡くなった時に、ガンって落ちましたね。まちからガンって人がいなくなりましたね。四月は三月の売り上げの五分の一でしたね…。2020年はすごい影響を受けましたね。どうすればいいんだって思いました。金土日は十一時までやっていたところを、時間制限もありましたし、昼間もテイクアウトしかできなくなったので、席全部潰してテイクアウトオンリーにしたので、必然的にはガンって下がりましたね。」

「今ほとんど戻ってきて、影響は特にない状態ですね。ただ先ほど言ったように一時間制だったりとか、まだ夜の営業もできないので七時までの営業なので。まあ、今後夜の営業はやらないと思うんですけど。売り上げとしては同じ水準に戻ってきているので。」


日本茶のメディア

小山さんは、Saténの営業をしつつThe Leaf Record という日本茶のためのメディアや、抹茶ラテアートコンペティションでも活動をしている。今後の活動の予定についてうかがった。

「今、実は、株式会社抽出社っていう会社を同時期に立ち上げたんですよ。the leaf recordっていう日本茶のメディアも実はやっているんですよ。この中でカフェスナップっていう日本のカフェをメインとするアプリがあるんですけど、それを運営されている大井さんと、あと茶園の息子なんですけど、今ちょっとカメラマンとかやっている吉田さんっていうこの三人でこのメディアを運営していて、株式会社抽出社をメインでやらせていただいている感じですね。」


The Leaf Recordではお茶に関したさまざまな記事やインタビューなども発信している。

「広告記事で出して、広告料いただいて記事を制作、渡しているものと、あと僕らが取り上げたい内容で日本茶のベンチャー企業、岐阜県の白川っていうところでメインで行っている会社で、そういうのも興味があったらインタビューをやらせてもらってます。でも、もう一個が、これも実は記事になっているんですけど、抹茶ラテアートコンペティションをやっていて。コーヒーのラテアートコンペの抹茶ラテ版ですね。去年で第四回が終わって、今年第五回を計画しているところですね」

コンペの参加者は海外からの方もいるとのこと。

「基本的に東京のバリスタさんがメインですね。この人達はみんなバリスタなのでいつもはコーヒーを入れている方ですね。でもこの時だけはお茶を入れているって感じですね。でも確か第一回と第二回の時はコロナ前だったので、海外の方も結構いましたね。台湾の方がいましたね。で企業さんからスポンサーをいただいて、運営させていただいています。で、後々は、海外で日本の抹茶を使ったり、海外の抹茶を使ってコンペをやっていきたいですね。」


オンラインメディアはSatenブランドとそのメニューの宣伝媒体としてではなく、日本茶文化の発信をするためと、日本茶を「鑑賞物とする」文化を創造するための媒体である。「ラテアート」を含む、お茶を鑑賞する新しい文化は、コーヒー文化を倣っている。新しい日本の茶室への道は、コーヒーの国を通ってきているのである。(ファーラー・ジェームス、田中泉、木村史子 2022年7月22日)

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