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創意工夫で西荻に馴染むカフェをつくる

更新日:2022年7月29日



前回の記事では、西荻のことビルの由来を詳しくお伝えした。今回の記事では、ことビルの最大のテナントをご紹介する。)

西荻のことビルを管理する上で最初のミッションは、一階の広いスペースに入るテナントを見つけることだった。スペースの広さと駅からの近さにより、カフェがテナントとして選ばれるのは自然なことだった。西荻のこと研究所は、企業チェーンではなく、個人店が育つ都市再生のモデルを実現することに力を注いでいる。そのビジョンに適切で、信頼できるパートナー探しを始めたのである。その結果、ノフコーヒー」が誕生した。平均的な西荻のカフェよりずっと広く開放的で、東京の街角にあるブルックリンのようだ。


2021年十月十四日、ノフコーヒーがことビル一階にオープンした。ことビルは、「西荻のこと研究所」が管理し、西荻窪で新たに店を始める人たちを支援するためにテナントを貸している。「輝かしい未来」という意味が店名に込められたノフコーヒーは、西荻窪の伝統的なものづくりと新しいものの両方を大事にした空間を目指し、日々メニューや空間作りに試行錯誤を重ねている。今回、オープンから数ヶ月間のノフコーヒーの歩みについて、十一名のスタッフを束ねる社員の谷亜優香(たに あやか)さんと上田辰也(うえだ しんや)さんにお話を伺った。


まず、谷さんが出店の経緯を説明してくれた。

「オーナーは荻原武彦(おぎはら たけひこ)っていう男性で、未来工房っていう会社の代表取締役で、飲食をやりたいっていうので、オーナーがこの土地を見つけてきて、ここでやりましょうっていう風になりました。ことビルのコンセプトにあって、オーナーの意見とことビルさんがやりたいことが一致して、この場所に出店しました。」


おしゃれな店内で一際目を引くのは、鮮やかな壁画だ。ニューヨークのファッション工科大学にアートを勉強した西荻窪在住のアーティスト、ハラダエリコさんの作品だそう。店のインテリアは、建築家の瀬川翠(せがわ みどり)さんが担当したという。スタイリッシュな雰囲気の一方で、オペレーションよりもデザインを重視した設計になったため、実際に営業を始めてから改良点が見えてきたと谷さんは言う。

「お客様の見えてる部分はすごい広いんですけど、客席とか五十名分ぐらい。でもバックルームとかスタッフルーム、キッチンがものすごく狭くて、そもそもグラスとかを置く場所がないんですね。今ちょうどあそこに棚を設置しようとしていて、設置してからカップを全部グラスに変えたりとか、マグカップに変えたりとかしようっていう話にはなっていて。温かいものはマグカップとかで飲んだ方が保温もされるので、今デザイナーの方に頼んで棚を設計してもらっている段階ですね。紙カップのゴミも増えるので。お店のレイアウトがほぼほぼ出来上がってから私たちが入っているので、私たちが今使ってみてこっちの方がいいんじゃないっていうので、色々やってっていう感じですね。新しい機材入れたりとか。」 



(インタビューの後で棚は設置され、飲み物もマグカップで提供するようになった。)


メニューも最初は外部に委託して開発したものだった。しかし現在は、お客の反応を見ながらより多くの人に愛されるメニューを自分たちで作っていると谷さんは言う。

「もともとあったメニューが、庄野真愛(しょうの まかな)さんっていう料理研究家の人にお願いして、メニューの開発を全部委託してたんですね。この方がずっとお店にいるわけではないので、一通りお客さんが一周したかなっていうタイミングで、もうちょっとこう、私たちが実際に接客とかしたりお客様の反応とか聞いたりして、こういう方がいいんじゃないかなっていうので、…新しいメニューをどんどん入れていってるっていう状況です。もともとあったメニューをお客様に提供してたので、そうではなくて、こっちの方がいいんじゃない?っていうのをスタッフ同士で話し合って、じゃあこうしていこうかっていうので、今新しいメニューを開発してるっていう感じですね。」


以前パティスリーに勤務し長年お菓子作りに携わってきた谷さんに、新たなメニュー開発の様子について伺った。

「オーナーがデイリーで使ってほしいっていう、日常的にうちのカフェを使ってほしいっていう風に、ずっとオープンしたときからおっしゃってて。デイリーで使うにはメニューをずっと一緒だと、やっぱり頻繁に来ようとは思わないし、変化をどんどんどんしていかないと日常使いってなかなか難しいのかなって。ずっと同じメニューだと、やっぱり飽きるし、日常で使ってもらうには厳しいのかなっていうのもあって、定期的にメニューを変えてます。頻度は特に決まってなくて出来次第っていう感じで。これがいいんじゃないっていうのとか、あと、こういうのが食べたいよね、とか、こういうのをお客さん言ってたよ、とかって言われると、まあやろうかって。で、現状あるものなくして新しいものにして、ちょっとずつっていう感じですね。一気に変えるのはちょっと難しいので。」



創作アメリカンビスケットメニューは日替わり。

新たなメニューを考案する上で、客層の分析とお客とのコミュニケーションが大きなヒントになっていると谷さんは言う。

「お客さんは若い人ばかりというわけではなくて、休日は結構インスタグラムとかで見てくれた大学生とかが多いんですけど、平日はママ友とかご近所の方、あと男性の一人のお客様もパソコンとか本とか持っていらっしゃったりしますね。そこにちょうどコンセントがあるので、充電席になるんですけど、そこで仕事されている方も結構いらっしゃったり、むしろ若い方が思った以上に少ないなっていう感じですね。思ったよりも年齢が上の方が多くて。八、九割は女性ですね。平日の午前中というか、カフェタイムはママ友とか多いですね。カフェっていうこの場所が、西荻窪ってお酒飲むところとかこじんまりしたところは結構あるので、男性とかは定食屋さんとかの方が入りやすいのかなって。仕事される方は割と時間使いたいから、そこの充電席で作業されてる方はいらっしゃいますね。男性は一見さんというよりも、結構回数来てくださっている様な感じがしますね。新しいメニューを考えるときは、結構スタッフの意見は聞いたりしますね。『こういったのがいいんじゃないか』とかっていうのを、お客さんとコミュニケーションを取ってたりとかして、『こういったものがこうお客様にとっていいんじゃないか』っていうのを結構伝えてくれるので、じゃあこういったものにしよっか、っていうので試作は入りますね。」


西荻窪に住むお客を掴んだことが、「昔ながらで素朴なお菓子をメインに作る」という大きな方向転換のきっかけになったと谷さんは語る。

「私こういうエリアで働くのが初めてで、いつも六本木とか恵比寿とかそういう繁華街というか、結構大きなところで働いていたので、なんかお菓子とかも六本木とか出るやつとは全然違っていて。なんか昔ながらの誰でも知っている様なお菓子の方が売れる様な気はしますね。ちょっと素朴な感じの。六本木・恵比寿ってやっぱりみんな新しいものが好きだから、新しいものでちょっと変わったものとかがすごく売れるんですけど、そうではなくてご年配の方もわかるようなわかりやすいお菓子っていうのが出る様な気がします。今チョコレートのテリーヌ出してるんですけど、それも出した初めの頃はあまりでなくて、『生チョコのケーキ』とかみたいに表現を変えた方がいいのかなって思うぐらい正直出なくて。でもデザートプレートにちょっとつけると、それが美味しかったからってテリーヌを食べてくれる方も増えてはきたんですけど、なんかその今まで働いてきたところとはちょっと違う様な、もう少し伝統とか懐かしいお菓子とか誰でもわかるものの方が出るな、っていう印象ですね。」


西荻窪の人たちに受け入れられる素朴で美味しいお菓子を試作する中で、印象的だったエピソードを谷さんが教えてくれた。

タルトタタンがあった時は、ケーキの中でダントツでタルトタタンが人気だった気がしますね。やっぱそういう昔ながらのやつが好きなのかなっていう。オーナーに試作出したときは、見た目ちょっと地味だし、金額も割と張ってたんですね。ここの現状あるデザートの倍くらいかな。チーズケーキが450円でタルトタタン800円だったので、『その金額で出る?』って言われて。やっぱ六本木とか恵比寿だと普通に1000円超えてくるぐらいのものだから、800円なの結構原価ギリギリなんですけどっていうので、800円で行かせてもらいますって言って。そしたらやっぱ反響が大きかったので。見た目全然地味たけど


、やっぱおいしいっていうのは多分みんなわかってるから、そういうのがやっぱり売れるのかなっていう感じがしますね。新しい華やかすぎるものっていうよりかは。」

「オーナーもデイリーで使ってほしいっていうところがあったので、『その金額で行ける?』みたいな感じがやっぱりあって、『すごい見た目地味じゃん笑』っていう(笑)。そうなんですけどいけると思いますって言って、行かせてもらったんですけど、そうですねなんで、もうちょっときれいな色、赤とか使ってたりとかした方がオーナーは売れると思ってたみたいなんですけども、私もそこまでタルトタタンが当たるとは思ってなくて。やってみたらめちゃめちゃ人気でした。」


メニュー開発の試行錯誤が続く中で、現在人気のケーキとドリンクのメニューを伺った。

「今一番人気はデザートプレートですかね。チーズケーキとブリュレとテリーヌが全部入ったデザートプレートがあるんですけど、それがやっぱりちょっとずつ女性の方は食べたいっていう方が多いので、それが一番人気ですかね。お茶の時間に何人かでいらっしゃった方が一緒に召し上がるっていう感じですね。ドリンクで一番出るのはやっぱりドリップコーヒーなんですけど、自家製のジンジャエールがコーヒーに次いで売れるようになって。今その後にハニーラテ、はちみつのラテを出したんですけど、それも結構多くて。あと今出てるのだハーブティーとかが結構出ますね。コーヒー豆は、元々焙煎されたものを卸してるので、それを使ってっていう感じですね。」


ノフコーヒーに来るお客の多くは、店のSNSが来店のきっかけだそう。

「ありがたいことに四千三百人ぐらいフォロワーがいるので、発信すると割と返ってくるというか。『インスタグラム見て、この商品目当てに来たんですけど』っていうのも結構あったりとかするし。あとツイッターもやっているんですけど、これも結構反響というか、西荻窪ってツイッターがすごい好きらしくて、西荻窪の人は、インスタグラムよりツイッターで見たんですけどっていう人が多いですね。」

「ちょっと出してたリンゴのタルトタタンが、年内に一回販売終わって、りんごがちょっと買えなくなっちゃったので一回やめたんですけど、一時的にリンゴが入ったので、やってインスタグラムとツイッターで流すと、割とやっぱりそれ見て『タルトタタンってありますか』っていう感じでいらっしゃる方がいたので、結構SNS見て来られてる方も多いのかな、という印象ですね。」



ちなみに、谷さんと上田さんがノフコーヒーで働くことになったきっかけもインスタグラムだと言う。谷さんは、

「そもそもインスタグラムで、ここのお店ができますっていうのを見ていて、まあちょっと転職しようかなっていうタイミングと重なって、お話だけでも聞いてみようかなっていうので、伺ったら、今のオーナーにすぐにきて欲しいって言われて、ちょっと考えさせて欲しいって言って、ちょっと考えてから働こうかなって思った感じですね。」

と言う。


上田さんは、

「僕はまあ料理とは別の方向で俳優として活動していたんですけど、それでまちづくりというかローカルなコミュニティに興味があって、僕は練馬なんですけど、遠くない距離で吉祥寺ではよく遊んでいたので、その周辺が僕はすごく好きだったんですね。で、なんか大きいお店ができるっていうのを僕もインスタグラムで拝見して、投稿されるものにちょっとずつ興味を持って、それでお話伺って面接を受けましたね。」

と教えてくれた。


ノフコーヒーの入口横の一角には、ことビルを管理する奥秋さんらが、西荻に関連する写真の展示や物販を行うスペースがある。奥秋さんらとの関係性と展示スペースが店にもたらす効果について、谷さんはこう語る。

「奥秋さんが窓口みたいになっていて、展示したいっていうのを、『こういう販売したい、っていう方がいらっしゃってるんだけど、どう?』って言われて、それで私たちの意見と合致すれば、もう、そこでやってもらうっていう感じで。日曜日も本当はチョコレートの販売を控えてたんですけど、バレンタイン前だったんで。ただ、コロナウイルスの影響でちょっと一回、三月に延期しますってなっちゃって。チョコレートの専門店を構えている方が、ここで販売したいっておっしゃっていて。今度は写真展をやるみたいで、割となんでも、販売とかも全然やってもらってもいいですよっていう感じの。スペースを貸してるのがうちなので、一応うちには相談してくださいますけど、基本的には奥秋さんたちが管理してるので、全然いいですよっていう感じ。結構西荻の人って、たぶん西荻の人たちが好きじゃないですか。だから、どなたかが展示しても、そのお友達とかって結構いらっしゃるので、お店への相乗効果は結構あるのかなっていう感じはありますね。」


ノフコーヒーがテナントに入る前に同じスペースに店を構えていたキルトショップは有名な店で、遠方からわざわざ訪れる人も多くいた。地域で長く愛されたお店の跡地に出店することはプレッシャーになったかという質問に対して、谷さんの答えは意外なものだった。

「そもそもそのキルトショップは知らないからあれなんですけど、でも『キルトショップをこのまま使ってくれてるのが嬉しい』って言ってくれる方すごい多いから、やっぱなんか長年愛されてきたんだなっていう感じはあって。結構、『キルト屋さんでしたよね』とか、『いつからやってるんですか』みたいな感じの方多いから、すごいやっぱり認知されてたのかなっていう感じはありますね。だから、場所を大事に過ごしたいなって思うし。昔のキルト屋さんだった時来たことないし、正直ここを通ったこともなかったからわからないけど、そういった感じで、『キルトショップでしたよね』みたいな感じで言われると、やっぱりここの場所を大事にしなきゃな、とすごく感じますね。私はこういう地域で働くのが初めてなので、本当に六本木ヒルズとかは全然違うし、やっぱり東京は東京でも地域によって全然違うんだなっていう感じはすごくしますね。」


今後も、西荻の懐かしさと新しいものを融合させた店づくりをする上で、大事にしたいのは何か、についてお二人にうかがった。。

上田さんは、

「季節のものを使ったものが、タルトタタンとかすごく好評だったので、やっぱ日頃分からなくなるじゃないですか、季節感っていうのは。それを食を通じて取り入れて、一年を通して楽しめるような場所がいいかなとはちょっと思いました。」と言う。

谷さんは、

「ゆっくり過ごせる場所って本当にやっぱり少ないから、あんまり時間気にせずに、お母さんとかもベビーカーが入れるところが少ないっておっしゃってる方が結構多いので、そういった子育てしてる方とかも時間を忘れてゆっくりできるような場所をこのまま維持していけたらいいなっていうのと、まあ新しいものをどんどん出して、本当にデイリー使いで、『あ、よく見る人だな』とか、『久しぶりです』っていうぐらいの会話ができる。それこそスターバックスとかチェーンではないけど、結構日常で使ってくれるようなカフェにもうちょっとしていけたらなとは思いますね。常連さんができてもうちょっとお話ができるとか、コミュニケーションが取れるとかいうのがいいかなって思ってます。」

と話す。


西荻の外から来た人間が西荻で店をやっていく中で、西荻という町の特徴をつかみそれを店づくりに反映させるのは決して簡単ではないだろう。それでも、お客とのコミュニケーションやメニューの再開発を通して、新しい風を吹かせながら地域に受け入れられる存在へ成長したい、という強い意志が、谷さんと上田さんの話から感じられた。(ファーラー・ジェームス、木村奈穂、木村史子、7月8日2022年)


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