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珍味亭:三世代の台湾レストラン

南出口から10秒ほど歩けば、西荻窪で最も有名な飲み屋街にある「珍味亭」が目に入る。何件も立ち並ぶ焼き鳥の「戎」の店舗に囲まれているので少し見つけにくいが、西荻窪で五十三年の歴史がある中華料理店だ。小さなスペースの中には十人でいっぱいになる座席、メニュー数は少なく、主に男性常連客が夕方に飲みがてら食事をしに来る。

 

珍味亭は、台湾人移民家族で三代続けている家族経営店だ。現在、お父さまの林重信さんと息子さんの林賢治の二人で店をきりもりしている。一代目は、戦前に台湾から来日した賢治さんのお爺さまだ。賢治さんのお爺さまは来日後、食に興味があったので中華料理店で働きながら台湾人の親友から料理を学んだそうだ。彼は、1955年、新宿の有名な駅前飲み屋街「思い出横丁」に店を構えたが、1963年に西荻窪の駅前飲み屋街へ移転した。「思い出横丁」の雰囲気が好きだったので、似ていた西荻を選んだそうだ。

 

「親父、大きな店で失敗したから。新宿のときは従業員が十人くらいいたと思うけど、騙されたり、まあ、色々失敗したから。この店を始めるときは家族だけでやろうと決めた。小さい店だから、二人いればできるからね。親父はいろんな料理を作っていたけど、この店は小さいからメニューは特化したのね。基本は全部自分で作ってるね。それで効率を良くしたと思う。」重信さんがそう言った。珍味亭は今、ビーフンと豚肉料理(特に豚足)が有名なメイン料理となっている。

 

重信さんは西荻の飲み文化についても教えてくれた。「西荻窪は昔の飲み文化がそのまま残ってる。よくお客さんと話すけど、西荻の雰囲気は昭和のままだね。」「はしご。一日に三か所以上に行くやつは、『はしご』って、まあ普通にね。一軒行って、また次に。これ、昔のやり方。」

 

その一方で、彼は昔との違いも指摘した。「お客さんたちが大体会社の部長さん。部下を連れて、四人、五人で来るというのが多かった。昔はね。社内接待費を使って、部長が自分の部下におごったりするのが多かった。今は、サラリーマンは来てくれても、大体自分たちで払う。会社の接待費が使えなくなったから、自分たちでね。」

 

最後に重信さんは、西荻のコミュニティが昔からの引き継がれ続けていることを強調していた。「この町自体はほとんど変わってない。町そのものがほとんど変わってない。大きな開発もなかったし。町の本質は変わってないけど、お店は少しずつ変わっている。西荻は他と違うよね。駅前が開発されなかったから、そのまま呑兵衛に優しい町になってる。

 

三代目の若い賢治さんは、「男性飲み文化を越えた飲み屋」にしたいという野望を抱いている。「男性の方、一人で来る場合が多いから。彼女とか奥さんとか連れてきて欲しい。家族で食事に行くことには幸せがあるから。」

 

萬福飯店のように、珍味亭は西荻窪の「町中華」の伝統をしっかりと守り続けている。そして、珍味亭は、家族経営してきた店の伝統をも忘れることなく、五十三年間経営し続けている。林重信さんと林賢治さんの二人は、これからもこの家族で作り上げた店の伝統を守り続けていきたいと強く語っていた。(ファーラー、劉、木村 11月3日2016年)

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