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西荻の秘密基地‐「大人×童心」の世界

近所の居酒屋のカウンターの中に立つのは、単に料理人、ウエイターというわけではない。店に初めて来たお客を、常連客達が「居酒屋という社交の場」において身に着けている礼儀作法、「カウンター道」へ暖かく導く者でもあり、同時に一緒にお酒や食事を楽しむ者でもある。ともすれば近い将来、友人となり得る者でもあるのだ。新参者が一人でカウンターに座る行為は厳しい道場破りのように思われるかもしれないが、実はそうではなくて、大人が日々の悩み事から解放される憩いの場にたどり着ける行為なのである。その点、西荻窪にある「ザリガニ基地」は悩める大人達にはもってこいの居酒屋である。

 

西荻窪駅の南口を出て約三分ほど。道の角にぽわっとした優しい光と、「秘密基地・ザリガニ」と書かれた暖簾が見えてくる。ガラス張りの引き戸からは、カウンターがお客で賑わっている様子がうかがえ、焼き鳥の煙を逃がすために開いたキッチンのドアからはおいしそうな焼き鳥の香りと煙が漂ってくる。店に入ると、店長の川崎 将巨(かわさき まさなお)さん、ニックネーム、将(まさ)さん、が渋くも暖かさを秘めた表情で迎え入れてくれる。一階ではカウンターの向こう側で将巨さんがお料理の仕込みをしている。ちなみに日本酒とホッピーはセルフなので慣れているお客は冷蔵庫から瓶を取り出し、将巨さんへと渡す。カウンターには漫画、雑誌、そしてテレビからはアニメも流れている。そんな環境でお酒を楽しめる一階も心地良いのだが、ここにとどまらず、是非ともこの店の目玉である二階へと足を運んでほしい。二階へ行くとそこには沢山のファミコンゲームソフトが壁に掛けられている。どれも80年代の懐かしいファミコンゲームソフトだ。もちろんゲーム機・テレビも完備で、畳の部屋に座ってゲームをするとまるで子ども時代の秘密基地にきたような気持ちになる。

 

将巨さんによると、ゲームを置くようになったきっかけは「最初はシャレ」だったそうだ。

「お酒飲みながら二階でゲーム出来たら楽しいね、ってお客さんと話していて。で、じゃあ僕、テレビとゲーム機用意します!じゃあ俺はゲームのカセット用意するよ、って。でどんどん増えていった感じですね。」

 

そんな流れで最初、お店の一階で常連さん達とファミコンをするようになった。そして気が付けばお客さんからの寄付や、将巨さん自身で集めたゲームソフトの数も百を超え、お店の最大の特徴となったのだそうだ。ちなみにソフトカタログも完備済み。丁寧なゲームの説明つきなのでプレイ前はぜひとも目を通して欲しいとのこと。

「ソフトがダブってしまうこともあるので、もしゲームの寄付をお考えならば、このカタログをご参考に(笑)。」

だそうだ。

将巨さんは「大人が子どもに戻れる空間」「レトロ」をテーマとしてこのお店を始めた。また、これはお店の名前の由来とも重なる。

「ザリガニ釣りをしたりザリガニを飼ったりキープしたり、秘密基地つくったり。子どものころ遊んだじゃないですか。そういう童心を忘れずに、ここに自分だけの秘密基地をつくったらいいんじゃないか?ってことで」。

と将巨さんは話してくれた。

 

将巨さんの思いはお客達に届いているようで、無口で渋めのおじさま達もこのお店に入るやいなや、漫画を肴にホッピーを楽しんでいた。お客達は三十代、四十代の男性客が多い。社会では中堅からベテランと言われるような世代である。だからこそ、童心に帰り、ファミコンや漫画で一息つけるこの場所は彼らの特別な「秘密基地」なのだ。

 

酒の肴といえば、是非食べて欲しいのが将巨さん手作り、十年物のタレが決め手の「焼き鶏」。そして現地の人のアドバイスで改良に改良を重ねた、中国の郷土料理「ラム餃子」。将巨さんのおすすめセットは、お好みの酒とおすすめの串五本が付いてくる「千円セット」だ。ザリガニ基地の料理は、ほかの居酒屋と比べるとダントツでリーズナブルである。それには、将巨さんの、「安くしてでも、一人でも多くの人に僕の焼き鳥を食べてもらいたい」という熱い思いが込められている。新鮮な鶏肉に絶妙な塩加減と十年もののタレがきいた焼き鶏……気が付けば何本でも注文してしまった。ただ、「ザリガニ料理があるわけではない(笑)」のでそこだけはご了承願いたいそうだ。

 

将巨さんは北海道生まれの三十七歳。十八歳のときに仕事がきっかけで上京してきた。建設業、アパレル業界での仕事を経験した後、縁があって飲食関係の仕事をするようになった。最初は吉祥寺のお店で働き、そして知り合いの紹介により、西荻で居酒屋をすることになった。将巨さんはなんと、独学で料理を学んだそうだ。本人曰く、

「教えてもらったことはないですね。最初はおいしいって言われなかったですね。」

とのこと。だが研究を重ね、今ではお客さんが将巨さんの料理目当てで何度もお店を訪れる。将巨さんの店には一人で訪れる女性の客も多い。彼女たちによると、「お店の様子が見えるから一人でも入りやすい」「安いし、おいしい」からだそう。だが、理由はどうやらそれだけではないようだ。将巨さんの人柄がお客を引き付ける大きな要因なのだと思われる。

 

将巨さんは、お客達から、「将さんはツンデレだからね。」「こういう人だから。」と可愛がられている。褒められるたびに少しニヤつく将巨さんはとてもチャーミングだ。女性達の「ほんとは褒めらるの嬉しいんだよ。」というコメントにも、「そんなことないです。」と、「ツンデレ店長さん」は一応否定をする。

そして、このお店の魅力をもう一つ。将巨さんの「人生相談」。彼に悩みを話すことで気持ちが楽になるかもしれない。

「アドバイスはお金とりますけどね。月額300円 (笑)。」

しかし、相談だけならいつでも無料でやっているそうだ。

 

お客達の「ザリガニ基地」愛は将巨さんにも届いているようで、「育ててもらってるって感覚が強いですね。この町とかお客さんとかに」と話してくれた。

 

「ザリガニ」でゲームを楽しむもよし、おいしい焼き鳥に舌鼓を打つもよしなのだが、特に若いお客達には「カウンター道」にチャレンジして欲しい。将巨さんによると、

「カウンター道っていうのは一人で飲みに来たときの礼儀作法。茶道、剣道とか…心技一体、三位一体じゃないといけないんですよね。あとその昭和のよき文化っていうか、後世に残すべき無形文化だと僕は思う。」

だそうだ。

「具体的に言うと、迷惑をかけない。程よくスマートに。いろんなシチュエーションのときにこう対応するとかあるんで。そのお店に対してどれだけ思いやりが持てるか。」

つまり、「カウンター道」はカウンターを介して、お店とお客、お客同士のコミュニケーションを円滑にすすめる思いやりの作法なのだ。

 

ザリガニ基地。基地一階、カウンター席では漫画やアニメを楽しむ傍ら、大人の渋いカウンター道の鍛錬が続く。基地二階。子どもに帰った大人たちがファミコンゲームに興じる。基地内では日々、「大人×童心」の世界が繰り広げられているのである。おいしい焼き鳥とお酒を楽しみながら、そして将巨さんに触れながら、あなただけの秘密基地の中で日々の悩み事から解放されてはいかがだろうか。( ファーラー、高瀬,、木村、11月1日2017年)

Hana Nishi-Ogikubo