「ゆきすきのくに」:時空とオーガニック食文化が交わる店

料理は栄養とコミュニケーション手段の一つである。レストランの店長やシェフ達は、店のメニューや店内の空間に工夫を凝らし、外国・日本の地域、あるいは西荻という「場所」に対する考えを伝えている。また、彼らが幼かった頃の味や、ある時代の味、といったある「時」への想いを表現している。西荻町学では、これまで、そんな事柄に注目して記述してきた。しかし、料理に付与される様々な意味は「場所」や「時」には限らず、「価値観」や「経験」をも表現することができるのである。駅から徒歩約三分の場所にある「Organic Café ゆきすきのくに」は、店主の井戸理恵子さんが思い描く「健康的な生活」を具現化したオーガニック料理が味わえる店である。店名である「ゆきすきのくに」は、インタビューの中で井戸さんが説明しているように、「今日食べるものは未来の自分、少なくとも未来の体を作っていく」ことを思い起こさせる。

 

店に足を踏み入れると、背景に流れる優美な音楽や自然を物語るようなインテリアによって、瞬に「ゆきすきのくに」の世界に吸い込まれる。店を開店した当時ついて井戸さんはこう話す。

「最初からこの中の環境、例えば、壁に珪藻土塗るとか、下に井戸を通すとか、そういうの、全部一緒に造りました。モリソン小林さんっていう人が色々デザインしたものを、『こういうのに使って』って、『ああいうの使って』って、いう感じでやってもらいました。」

 

2015年の開店からおよそ三年、現在では友人四人と店を経営している。通常、店内は十七席だが、月四回程行われる暦・仏教の研究に関するイベント、料理教室のイベントの際には、さらに十名、入ることができる。店内の奥には客が肩を並べて座ることができる木製のカウンターがあり、その壁には調理器具の棚が設置されている。そして、目の前のスタッフの調理姿を見るにつれ、店についての詳細な説明を聞くにつれ、メニューには思慮深い考えが注がれているとを実感できる。

 

店名である「ゆきすきのくに」は、各メニューにある「時空を巡る考え」を表しているとも言える。

「『ゆきすきのくに』。『ゆき』と言うのは『未来にしかゆかない』。日本語では、『悠紀』というのは『未来』のことなんです。あと、『東』の語とある、言葉なんですね。で、『西』と言うのを『主基』、『すきのくに』というんです。これは『主軸』の『主』に『基本』の『基』と書いて、『今の私が決めたことが未来を作っていく』。今の私の食べたものが自分の未来の体を作っていく。で、『ゆきすきのくに』になります。」と井戸さん。

 

「ゆきすきのくに」で提供される料理は、様々な価値観や多岐にわたる経験から生み出されたと井戸さんは言う。「お料理はね、子どものころからずっとしてるので。祖母がね、祖母のところでは料亭をやってたんですね。それで、母が料亭の味て育ってるから、板さんのお弁当とかで育ってるわけですね。」

 

主な料理は井戸さんの手によって創り出させれる。

「元々料理が好きで、節句料理、節句料理ってお節句の料理、とか、宮廷料理とかを作ってまして、十数年間それでイベントやってたんです。それで、まあ、『料理のお店やってみないか』とずっと言われてたんですけど。その節句料理も出せるし、養生料理、人間の体を養生してくれるお料理、って言うのもその中に出していけるっていうことで、それで出すことになったんですね。」

と井戸さん。長年、このように料亭・節句・養生料理に関心を持ち続けた井戸さんは、これらの料理を基にしして作った料理を客に届けている。

 

井戸さんの職歴は豊かである。デザインの仕事もしていたそうだ。

「デザインもいろいろやってるんですね。そこから、例えば、家紋とか作ったり。社紋とか。だから昔の家紋に応じて、その新しい家紋を制作したりとか。そういうこともやってますし。あとは、漆物作ったりとか。」

 また、井戸さんは教育事業にも従事している。

「今も大学で環境工学教えてるんで。多摩美術大学の建築学部で、環境工学、日本全国で色んなプロジェクトやっていて。まあ、仕事、会社の方で町おこしとか、そのイベントとか。そういったのをやってるので、各地に行ってますし、あとは、職人さんたちと『ネットワーキング』をしていて・・・。」

 

「仕事は、もうそれは仕事で完結。それで、お店はお店ですね。」

デザイン・環境工学の仕事と店とは、きっちり分けて考えているようだ。井戸さんは仕事用ネットワークと店用ネットワークを持ち、後者のネットワークを駆使してゆきすきのくにの食材を手に入れている。店用ネットワークについて、井戸さんはこう話す。

「もう三十年ぐらい昔からの友人達が、ですね、みんな食にずっと関心があって、食を立て直そうとする。食から自然を守ろうとする。エゾシカが増えるとね、山が荒廃していくし。自然を守ろうという活動の中で私たちが何を食べるべきかっていうことを考えて。」

井戸さんは、ネットワークの人々と環境保護活動に取り組み、そこで得られる食材、例えば北海道のエゾシカを使ったメニューを通して、ネットワークの人々と井戸さん自身の価値観を「ゆきすきのくに」でお客達に伝えているのだ。

 

「ゆきすきのくに」でいう「オーガニック」とは具体的にどのようなものなのかについても、井戸さんに尋ねた。

「『オーガニック』っていうか、自然食なんです。自然を食べる。で、なるべく自然なものに近いものを食べるっていうことで。だから、ビーガンとかなんとかとかっていうことも、まあ、ビーガン料理も全部作りますけど、なるべくあるものを食べる。自然なものを食べる。日本にある自然のいろんな食を食べる。『神農本草経』というお経があって、その中に書かれてた知恵というものを中国の少数民族を研究していた先生、医学博士で、その先生から、まあ、こう、いろんなこと、指南を受けまして。若いころから。二十歳ぐらいのときかな。それで、その『神農本草経』のなかに書かれている食の世界とか、薬の世界とか、そういったものを食に応用していくということをまず考えたのと、あとは、自分で暦の研究をしていて。その、春夏秋冬ですね。その時に、どういう風に体の中の内臓が動くか、内臓の動きが悪くなるとか、そういったことを研究して。で、それらを合わせて作ってるお料理なんです。」

井戸さんはこう話してくれた。「ゆきすきのくに」の「オーガニック」と「自然食」は単に有機農法(オーガニック)であるだけでなく、漢方や暦の研究、そして伝統医学の考え方が融合したオーガニックということである。

 

井戸さんは、メニューをどのように組み立てているのかを話してくれた。

「人気メニューは、カレーと、それから豚丼と。全部北海道のものを使ってるんですね。ベジタブルプレートと、パン、ご飯と、おかず系と、小さいデザートですね。あとは、豚丼が二種類で、さっぱりとした豚しゃぶと、それからちょっとこってりとした味噌で焼いた、ちょっと肉厚の感じ。で、これ、麦しか食べさせていない豚で、体にいい豚ですね。あと北海道のエゾシカを使ったカレーとか、エゾシカメニューもあります。ですね。えっと、カレーが完全にベジタリアンのカレーもあれば、普通のカレーもありますけど、全て薬膳カレー。食べながら体調整えていく。しっかりやってます。」

豚の飼育方法にもこだわっているが、同じく野菜への栽培方法にもこだわっている。

「豚とか、肉類は北海道からが多いですね。でも野菜は各地からの方が。自然栽培、農薬も肥料使っていないものを中心として使います。」

だそうだ。

 

想像に難くないが、ゆきすきのくにのお客達は健康への意識が高い。

「ここでごはん食べると体調が整うって言って、一週間に一回必ず来るお客さん、いますね。体調管理って来る子がいる。体調悪いって来るお客さん、多いですね。はい。」

と、井戸さん。さらに、共に健康であろうとする姿勢の一環として、ダイエットをしている客に合わせて、メニューを決めることもあるそうだ。

「デザートとか。全てこだわったデザートを作っていて。だから、まあ、ダイエット中の人も食べられますね。」

 

お客達とは「健康」という価値観は共有されているが、お客達の性別や年齢、特徴は千差万別だ。

「女性は若干多いかもしれませんが、男性も結構来ます。世代はもうバラバラ。すごいバラバラですね。八十歳ぐらいのおばあちゃんから、すごい、こう、二十代ぐらいから。」

 

来店する客は日本人だけではない。「ゆきすきのくに」は小さな店であるが、日本語と英語の二つのメニューが置かれている。不思議に思い、尋ねたところ、

「ビーガンのお客様が外人が多いので。で、わりと外人のお客様が、ビーガンのメニューがある店がほとんどなくてって。で、一応すべてグルテンフリー。で、小麦粉一切使っていないので。で、グルテンフリーだとかビーガンだとかっていうことで。」

 外国人客の来店頻度をうかがうと、

「結構頻繁に来ますね。色んな人種が。色んな国から集まってきますね。多分、ビーガンというので来てるお客が多いですね。あとは、インターナショナルスクールの先生方も来てくれるので。インターナショナルスクールの先生の関係でもまた…。」

最後に井戸さんは、ビーガン対応やオーガニックの店は日本ではまだ数少ないが、「ゆきすきのくに」はこのような店を求める客の間では「結構浸透してるみたい」と話してくれた。

 

「ゆきすきのくに」は特定の場所、特定の時の料理を味わえる店ではなく、自然食・環境保護・漢方・暦・ビーガン等々の「価値観」を味わえるオーガニック料理の店であった。

 

(勝部利彩、ファーラージェームス、木村史子、1月15日2019年)

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