繁盛店はあたりまえのことをする

西荻で最も愛されているであろう居酒屋「しんぽ」は、ぴっかぴかの新店舗をオープンさせた。新しい店舗はついこの間までチェーンの焼肉屋「牛角」があった場所に入った。今の世の中、チェーン店が個人経営の店にとってかわられることは非常に珍しいことで、この事実は西荻町学の読者を大いに喜ばせるのではないだろうか。ここは、十年以上にぎわい続けた狭い本店「しんぽ」のすぐ隣に位置するため、店は「となりのしんぽ」と名付けられた。客席は六十五席。本店の倍以上の客席数だ。スタッフによると、出来ればこれからは二つの店舗で経営していきたいとのこと。となると、本店と新店舗とで収容できる客数はこれまでのほぼ三倍に増す計算だ。人口が減少し、市場が縮小し、飲食業の「チェーン店化」が進むこの時代において、より大きなビジネスに挑み、より大きなリスクを負おうとする個人オーナーは少ないのではないだろうか。 しかし、ここ西荻でそんな挑戦ができるのが居酒屋「しんぽ」なのだ。

 

食べログやレストラン情報サイト等で、居酒屋「しんぽ」は常に上位にランキングされている。「西荻でおすすめの店は?」と尋ねれば抜きんでて評判がよく、常にお客でごった返している。経営するのは新保至聴(しんぽのりあき)さん。去る2019年の春、忙しい仕込みの時間を割いていただき、なんとかインタビューをお願いできた。あれから八か月。新店舗の開店と時を同じくして、我々はあのときのインタビューを公開。はたして、彼の成功の秘訣に迫れているのだろうか。

 

同じように魚をメインで出す居酒屋は多くある。そんななかでここまで成功してきた「しんぽ」のこだわりをうかがってみた。いったいどんな経営をしているだろうか。

「やり方というか志一つですね。おいしいものを維持するのは簡単じゃないですよ、お店って。新鮮なものを入れればおいしいっていうそういう単純なものじゃなくって、 古いものがあったりダメなものがあったり、それを常に一定のレベル以上のものを出せるように、あの、気を使ってるんですよ。でも魚っていうのはぶれが大きいんで、ちょっと油断すると出ちゃんですよ。ダメなところが。でも、それを必死に崩れないように守り続けているだけなんです。」

 

「だから、すごく大変だし、ここまでやる人があんまりいないから、あの、競合が少ない。ないわけじゃないけど、焼き鳥屋さんみたいに多くない。魚は、いいものは高いんですよ。仕入れが。ものすごいお金を仕入れに掛けてるんですよ。ものすごいロスも出るんですよ。残念ながら。二割三割と。お魚、こういうのだけだと、数字上の利益率はものすごく悪い。それでも何でやり続けるかってところは、それなりの値段でおいしいものを食べてもらいたい。それだけですよ。そこがもうイカレちゃったらこのお店の意味はない。方法とかは別にないんですよ。自分が食べたいなというレベルの魚を常に用意しとく。ただそれの繰り返し。」

 

「お金を使って仕入れてきても、おろしてみたらダメな場合もある。お金使っちゃったからお客さんい出して当たり前にようにお金をもらうっていうのも一つの手ですけど、やらない。基本的にはオーナーがいて、店長がいて、数字を、絶対店長は原価率何パーまでおさえとけって言われてるんですよ。ここは運営が、ぼくがオーナーなんで、ぼくがそんなものは使わなくっていいと言えばそれで済むんですよ。原価率なんかぼくが気にしてないんで。給料が出る、家賃が出る、やってけてる、お客さんがいっぱい来てくれてる。それだけなんで。お客さんが良ければ、それでいい。アルコール飲んでくれれば数字(原価率)ってのは下がっていくんで。実感は持ってるんで。これがおいしいからお酒も飲んでくれるから、店ってやってけるんで。だからぼくは細かい数字とかは魚に関しては見ない。」

「ドリンクは設定しますよ、利益が出るように。原価率見て、これぐらいって。でもそれも、乗せすぎない。日本酒とか。日本酒とか原価率高くなるものはちゃんと選べるようにしてるかな。魚に関しては仕入れが跳ね上がったら基本的に使わないんですけど、使える範囲で選んでるんですけど、それはぼくが仕入れをやっているんで。」

 

魚に関しては原価率は重視しない。いいもの、新保さんのお眼鏡にかなったものしか仕入れないということに徹底しているようだ。なので、もちろん、仕入れにも基本的に彼自身が足を運ぶ。

「市場に行く時間、六時過ぎくらい。五時台にこっち出て。ぼくが行っているのは基本的に一日おき。昨日行って、今日は電話注文。毎日はさすがに体がもたない。市場の人とはもう十何年やってるんで、ぼくのこと知ってるんで、ぼくが好きな魚はある程度用意してくれてるんで。」

 

いい魚を選び、仕入れる。そしてお客には「魚のおいしさを味わう」という形で提供する。

「こういう職業始めて、いろんなことをやってみて、すごい人だと…ほんと料理を完成させるの長けてる人がいるんですよ。フランス料理だったらこうソースをかけて…。そうゆうことをちょっとやったんですけど、ぼくはそういうのそこまでの才能はないと思ったんですよ。味付けのバランスとか、すごい人になるとあと塩何グラム足して、とか、レシピからできる人いるんですよ。でもぼくはできないんですよ。で、できることなんだって考えたら、いいもの仕入れてそのまま出す。料理をやめたんですよ。作業にしたんです。ほぼ。刺身を切る、魚を焼く、魚を煮る…。」

 

ここに来たお客達のほとんどは「刺し盛り」を頼む。「しんぽ」の刺し盛りは、新鮮な宝物のような魚介の盛り合わせだ。

「あるときから、『ここに来たら刺し盛りを頼むぞ』という流れができちゃって、来た人がみんな頼んでくれるんで、ま、どんどん、どんどん、出るわけ。で、どんどん、どんどん、仕入れるわけ。ただ回ってるだけよ。だから自然と多くなっちゃうし。最初の頃は何で少ないかって言うと、お客さんはこの店がどんな店か様子を見に来てるだけだから、誰も頼んでくんないんですよ。そうすると、置けないんですよ。おけば置くほど、ロス。でも今は置いとかないと。ものがないと今度は店開けるのが怖いくらい。オーダーが激しくて。だからどんどん入れてるだけ。だから仕入れは昔より楽です。売れないときってもう、鰺(あじ)一本でも惜しいわけですよ。」

 

しかし、魚には旬がある。ましてや市場に出る魚は漁の状況によって日々変化する。おのずと店で出される魚は、季節ごと、いや、日々変化していく。

「魚は何が面白いかって言うと、季節で勝手にメニューが変わってく。入るものが変わるから。だからしぜーんとかわってくだけ。自分から変えないんです。魚が変えるだけで。今週はこういうもの作ろうか…それには海老のすり身が必要だから海老を仕入れようとか、基本しない。海老があったから海老を仕入れて、じゃあ、塩焼きでとか。それぐらいのことなんです、やっていることは。」

 

「しんぽ」の経営理念は、「お客に喜んでもらえる素材で勝負」ということのようだ。そして客達が納得できる値段で提供する。では、その素材を手に入れることについて、もう少し詳しくうかがってみた。まずは魚について。

「魚の旬っていうのはいろいろ難しくて、あの、その年…日本酒とちょっと似てるんですけど、そのときのものが、状態が、去年よくっても今年よくないとか、去年よくなくても今年いいとか、それを繰り返してるんですよ。そのときにいいものをメインで入れている。だから、それが月とかじゃないんですよ。あるかないかなんですよ。分かりやすい。あるかないかのものを一番量が出ていて質がいいものを入れるのが一番なんですよ。どっかいけばあるんですよ。市場ってでかいですから。どうしてもこれが欲しいってものがあれば、それはあんまりよくないんですよ。例えば、ノドグロを一年中置こうとすると…今ノドグロ人気じゃないですか。あれ、安くなったり高くなったりするんですよ。脂がのったりのらなかったり。うちがやるのは、値段がよくてものがいいものがあったら、ガーンって箱で入れる。よく、「ノドグロないね」って言われるんですけど、それは、ものもよくないし量も少ないんで。いちいち言わないですけど。売ってないんですもん。市場にだって「入れたいな」って魚、たぶん、一割とか二割とかの幅しかないですよ。市場ってそんなとこなんで。基本養殖ですから。メインは養殖と冷凍もの。じゃないと食料として間に合わない。おいしいものを、例えばこういうとこきて、ちょっとお金を払って食べるって量しかないんですよ。それを家庭で食べるっていう、昔はあったと思うんですけど。今は取り合いですよ、いいもの。」

「でも、何人かはぼくのところは一生懸命やってくれている人だ、って思ってくれてる。そこがポイントですね。そういった人がいないと、じゃあ、市場行ったら買えるでしょうってみんないうけど、買えない。特に豊洲になったらわけわかんないですよ。築地はずっと行ってたんで、人間関係ができててよかった。ほんと。豊洲はコストコとかそんな感じだから。建物もそうだし。商業施設みたいに壁もいっぱいできちゃって、そこで人間関係をあらたに作るのはホンっと難しい。豊洲は分かりにくい。築地の方が壁もなくてぱーんとしてたから見えたんですよ。で、ここはこういうの売ってるなって。今はなんかみーんなおんなじような感じに見える。」

 

仕入れ交渉には時間がかかるのだろうか。

「時間かかんですよね。むこうはやっぱり古いもんもあるから、そういうのもがりがり売らなきゃなんない。値段ばっかり言ってると…『安いのくれ、安いのくれって』言ってると…。『安いよ。古いけど』…なんて言わないけど(笑)。ぼくもね、はじめのころはお金もなかったんで、値段っていうのは結構気にしてたんですよ。でも、いいものを仕入れて、高くても、そうしても損しない。ものがいいから、日持ちもするし、お客さんも喜ぶから。」

 

結局、いいものを仕入れたほうが店としてのパフォーマンスが上がる。

「市場とお客さんとぼくがおんなじ歩幅で回ってくれてるのが一番いい。歩幅っていうのは利益の話。市場の人はぼく、ぼくもお客さんから利益をいただき。でもそれが利益を取りすぎたり、市場の人が取りすぎても嫌じゃないですか。ぼくもお客さんに対してあまりにも大きい利益の商売はしたくないし、単純にみんなスタッフもいてそれが自然に回りさえしてくれればいいと思ってやってるから。」

 

しんぽで扱う魚は天然物がメインである。

「養殖と天然の差が一番わかるのはマグロ。うちが養殖を使うのはカワハギクルマエビくらいかな。あとは基本的に養殖は使わないですよ。ぶりとかは絶対使わないですよ。やっぱりね、脂が臭いんですよ。養殖のヒラメ、生きたやつをしめてコリコリだとわかんないですよ。でもそれが一日、二日経って、ちょっと焼いたりして食うと臭いんですよ。ウーン、やっぱね、これはね、唯一これを超えてるのがカワハギとクルマエビぐらいかな。養殖の方がすごいんですよ。安定していて。市場で天然のカワハギと養殖のカワハギが水槽にいるじゃないですか。カワハギだけは養殖の方が高いです(笑)。しかも、ぼくの店で揚げたり焼いたり、刺身にしたりしても養殖っぽさはあまり今んところはしないんですけど。それでも嫌がる人は嫌がります。飲食店の人でも言う人はいます。使わないって。養殖だから。だけど、その辺りにこだわってそこまでやる店って少ないですよ。天然だけじゃ回んないんですよね。規模が大きくなったりすると、マグロはだいたい養殖に変わりますよ。がんばっているところで冷凍の天然のホンマグロはいいと思いますけど、そこのラインを超えると養殖ですよ。脂のってるんで、ものすごく。ものすごいトロ感あるんで、寿司とかで食うと。脂がのってるのって、すっごい新鮮な時ってわかんないんですよ。でも、酸化が早いんで。日に日に脂がまわってくる。いつ食べるかによって。養殖もいっぱいあるんで、一概には言えないんですけど、ぱっと見た目でわかんないくらい質いいですよ。まぐろなんか。これでいいなぁ、すげえ楽…とか思うんですけど、仕入れも。天然でそのレベルを求めるのは結構至難の業なので。でもね、食べるとやっぱり使いたくないなぁって。サーモンとかも。サーモンも、人気じゃないですか。サーモンが食べたいって子ども、いっぱいいますから。あれもね、年々質が良くなってきてるんですよ。脂も臭くないいし、とろっとしてるし。でも、ぼくは今、ここのお店では使わない。あれもう、工業製品ですよね。工場で生きたサーモンが機械でスパーンって半分になって、真空パックになって。でも、そこを捨てていいのかどうかはわからない。安定してるんで。人気だし。でも、あるんで、天然物で。ぼくはまだ天然もの主流でがんばってる。」

 

では、アルコールはどのような考え方で用意しているのだろうか。

「日本酒があって、ほんとはワインもあればよりいいんじゃないかってよく言われるんだけど、ワインが飲みたきゃワインのお店にいけばいい。ぼくは中途半端なものはいらないんじゃないかって。ワインはあってもいいと思ってるんですよ。でも、このお店でグラスが…とか、管理が大変なんですよ。だからやらないだけで。管理できる範囲でやっているだけで。」

 

「日本酒は、飲んでうまければいい。辛いのもあって甘いのもあって。日本酒は毎年味も変わるから、『あ、あの酒はおいしかった~』って言われても…。だから、『今日おすすめの酒ってどれですか?』って聞いてほしい。そうしたら『どういう酒がいいですか?』ってこちらも聞くんです。ほとんどの方が『辛口』ってこたえるんですけど、中には甘いのくれっていう人もいるんで。それを聞いてから、おれが飲んだ舌が覚えてるやつを当てはめていく。ほんっとにおいしいときあるんですよ。出来いいなって。そのときは『これ』って。たいていは自分たちで飲んでるんで、それを当てはめる。」

 

今回開店した新店舗はとても広い。しかし、この新天地を開くまでの十年以上、新保さんはお世辞にも広いとは言えない本店で驚くほどの成功を収めた。成功の秘訣は、限られたスペースをとことん有効活用したことだろう。本店は鉄筋コンクリート五階建のビルの一階に入っている。一階のカウンターの上に木造の中二階を作り、そこに三個のテーブルを置いた。

「普通はね、できないですよ、こんなの。でも、鉄筋コンクリートなんで打ち込んじゃう。だから家賃はこの分で、中二階が。家賃この分(中二階の分)ないんで。あと席数がこの分も。全部で二十八席くらい。」

大きな店にすると家賃などの固定費が上がってしまう。かといって、狭い店だと入れられる客に限りがある。しかし、新保さんは店の空間を有効に活用して、必要経費をおさえつつ、店のパフォーマンスを上げていた。

他にもパフォーマンスを上げる工夫がされている。それはお客の回転率だ。

「三回転くらいさせるよ。予約で、時間制で。今日みたいな日はそうでもないんですけど、一番忙しい時は三回転。普通は、ま、大体二回転くらいじゃないですか?」

もちろんこれらは店の利益といった視点からというより、「しんぽ「」で食べて飲みたいお客達をできるだけ迎え入れる工夫なのある。

 

店で提供するもの、店舗の工夫。そして、そこに人の頑張りがある。新保さんの労働時間は、長い。

「店には十二時近くまでいます。朝は五時半に出て、一回家にちょっと帰って、また昼十二時くらいに来て、あとはぎりぎりくらいまでいて。家に帰って寝て。ぼく、子どもがいるけど、子どもが寝てから家帰って、起きる前にまた家出て、ほぼ会わない。そうなんですよ。どんどん(子どもが)でかくなって。そんなんでいいと思ってますけど。毎日五時に帰ってもどうしようもない。五時に上がったら家には帰ってないですね。飲んでます(笑)。」

もちろん、一人の人の頑張りでは成功は難しい。新保さんのもとでは、勤勉な従業員達が働いている。本店「しんぽ」と「スタンドしんぽ」の従業員は合わせて六人ほど。それ以外に、アルバイトが交代で入る。

「みんなちょっとずつしか入んないですけど。無理やり手伝ってもらっている。(今、飲食業界ではアルバイトが見つからない)そう。見つかんない。ちょっとねー、それはもう飲食業だけじゃないんじゃないですか。建築業とかもほんと人がいなくて。もうちょっとなんとかならないですかね…。」

新店舗がオープンした現在、本店とスタンドしんぽはしばらく休業し、スタッフ総出で新店舗で働いている。全店同時経営するには、スタッフを増員しなければならない。人の問題。これは今後の営業における大きなハードルとなるかもしれない。

 

「お店は大変ですよ。維持するのが大変ですよ。座って箸やおしぼりが出てくる、ビールが出てくる。あたりまえじゃないですか。お客にとっては。それをずっと続けるのって、ね。人が辞めたりいろいろあるわけじゃないですか。それを…。飲食ってほんと大変だと思いますよ。掃除して…、料理してってね。あといろいろ、いろいろね、雑用が多い。」

 

「でも経営者より現場の方が好きなんですけど、年を取るわけじゃないですけ。このまま七十歳でこれでいいんですかと。できないだろうなぁと、まずいなぁーと思ってるので、どこかでスターバックスの経営者になってるかも(笑)。そのときはコーヒーをご馳走しますよ(笑)。」

 

新保さんに不安がないわけではないだろうが、成功している店をより拡大するという彼の決定は、このビジネスにこれからも長い将来があることを意味している。

「他の飲食業も興味ありますけど、思い浮かばないんですよ。もっと人が集まるところをとか。喜んでお金を使ってくれるところを。人の喜びっていうものの一つになりたい。詐欺とかなんだとかあんなんでお金もらってもしょうがないですよね。こちらの労働に対する対価。喜んでもらえるんだったら何やってもいいと思っているので。」

 

お客様に喜んでもらえるサービスをする。そのサービス=労働への対価としてお金をいただく。繁盛店は当たり前のことをやり、当たり前の結果として繁盛しているのだろう。(ファーラー・ジェームス、木村史子、2月4日2020年)

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