タピオカバブル:新移民がもたらす飲食ファッション

世界各国で移民は新たな飲食トレンドを生み出している。そしてここ東京でも決して例外ではない。比較的手を出しやすい商売であるタピオカミルクティーは、台湾や中国本土からの新移民にとって、拡大しつつあるグローバルビジネスのチャンスだと言える。若者たちは夏になると、混雑する東京の路上で甘くカラフルな液体に浮かんだ澱粉の小さな丸い玉を太いプラスチックストローですする。高校生や大学生が行き来する西荻窪もまた、例外ではない。西荻駅隣のスーパー西友裏口を出たところにある「パンダティー」はタピオカミルクティーの専門店だ。店の中では若い女性たちが、お茶が入ったカップを寝転がってじぃっと見つめるパンダのキャラクターがついたドリンクカップの写真を撮っている。

なぜタピオカ?なぜパンダ?そして、なぜ西荻窪?これは詳しく聞かないわけにはいかない。

 

普段、店の中には二人の若い店員がいる。一人はミルクティーを作り、もう一人はレジを打つ。店長の方さん(ファンさん)もよく店にいる。遼寧省出身の彼は2017年に留学生として来日した。

「大学を卒業してから三年間(中国の)役所で働いたが、そこの仕事はつまらなくて、給料も低かった。もっと稼ぎたかった。小さい頃から日本のアニメとバラエティ番組が好きで、日本に興味を持ち、来ることにした。初めはここで漫画専門学校に通ったりするつもりだったが、一年間語学学校で日本語の勉強をしたら、漫画を学ぶにはまだ勉強の時間と何年かの経験が必要だと感じた。でも、私はもうそんなに若くはない。ちょうどその頃、日本でタピオカミルクティーが流行り始め、その流れに乗って店を開いたんです。」

方さんはとりあえず、漫画の夢は保留にした。

「普段から漫画は読んでいるし、また後で学べばいい。」

 

この商売を選んだ理由と開店までの経緯を、方さんはとても簡潔に話してくれた。

「2018年の十月にこの会社を設立し、それから店舗の準備をし、場所を選び、2019年の三月にこの店を開いたんです。タピオカミルクティーは2018年の冬から日本で流行り始め、2019年の夏にブームになりました。わたしは中国国内の似たような店でバイトをした経験があったから、このトレンドを掴みたかった。でも、主な理由はというと、コーヒーは日本に海外から持ち込まれて今や主流な飲み物になって、一方タピオカミルクティーは中国本土に台湾から持ち込まれ十年ほどで一般的な飲み物になったわけだから、中国でのタピオカミルクティーの現象を日本でも再現出来るんじゃないかと思ったからなんです。それに、美味しいしね。」

 

方さんは自分の店だけではなく、「パンダ」というブランドを作り上げたことを誇りに思っている。日本人はパンダが好きだ、と彼は言った。

「パンダは私の店を特別にするし、中国を象徴するものだからです。」

彼に言わせると、タピオカミルクティーは本来台湾のものであったが、今や中国本土で飲まれつづけ十年以上にもなるため、中国文化の代表だと言ってもいいとのことだ。

 

方さんは自分のブランドの品質イメージにもかなり気を使っている。

「材料は良くないといけない、低価格を求めるのはだめだ。品質は保証するべき。私はこの商売を始めたばかりだから、良いものを作らないと商売は長く続かない。」

 

店舗の立地として、実は、西荻窪は第一希望ではなかった。店舗を探す中で、方さんは外国人が都心で店舗を確保するのは難しいと感じたそうだ。

「2018年に会社を設立してから場所を探し始めたけど、色々な問題が出てきていい場所が見つけられなかった。でも、最盛期(夏)の前に店を開かなければならなくて、結局この場所(西荻窪)を選んだんです。駅から徒歩一分の場所が欲しかったけど、東京ではあまりなかった。どうしてかというと、紹介してもらえる物件数が少ない、中国人の仲介会社を利用したからです。それに、日本では外国の国籍を持っていると規制が多く、外国人として物件を探すのが難しいんです。外国人不可の場所もあれば、飲食店不可の場所や『重飲食』不可の場所もある。五つの物件を見ても、実際話し合いができるのは一、二件だけ。」

 

パンダには様々な年齢のお客がやってくる。しかし、やはりほとんどは若者で、特に東京女子大の学生が多い、と方さんは言う。 高校生のお客もいるが、校則で登下校中の買い食いを禁じている高校もあるため、大学生ほど多くはないようだ。お客の約70%は女性である。

「女性は甘い飲み物が好きだ。」

と、方さん。彼の目標の一つは顧客ロイヤリティを作り上げること。パンダにはポイントカードがあり、ポイントをためると店のグッズと交換できる。そういった特別なプレゼントと値引きのサービスで他の茶店と差別化をしているそうだ。

 

方さんによると、飲料関係の売り上げは季節に大きく左右されるそうだ。

「暖かい飲み物もあるけれど、(冬の間は)夏に比べて売り上げが少ない。例えば、夏の週末には朝から晩まで行列だ。」

東京の比較的家賃が高い場所では、今、たくさんのタピオカ店がつぶれている、と彼は言う。少なくとも、寒い冬の間は。しかし、これは東京のタピオカバブルが崩壊している兆しかもしれない。そして今、コロナウイルスの感染拡大により、中心顧客である学生達は休校。お客の足が遠のきつつある。

 

この方さんへのインタビューは全て中国語で行われた。数年間しかこの国に住んでいない彼にとっては、日本で商売をする一番の大きな問題は言語だ。

「言語学校ではあまり熱心に勉強しなかった。簡単な会話が出来るぐらいだ 。たまに色々な手続きを行なったり、簡単に話したりするときがあるけれど、難しすぎる話になると翻訳ソフトウェアを使う必要がある。英語を話すのとは違う。小さい頃から学校で英語を習っているわけだから、英語を話す国にいると比較的簡単で楽だ。しかし、ここ(日本)に来るときは全てがゼロから始まる。」

 

海外で商売を始めるのは容易なことではないが、方さんには一つ優位な点があった。 店の設立資金は彼の両親が調達してくれたのだ。だが、彼は、彼自身がこの国で自らチャンスを掴もうと進んできたとを自負している。

「チャンスは準備ができている人の為にある。」

と。

 

これまで私達がインタビューした他の料理店のオーナー達とは違い、パンダは店員を探すのに苦労をしていない。方さん自らの中国ネットワークを利用している。ほとんどのスタッフは語学学校や大学に通う中国人学生だ。

「そう、全員中国からの留学生だ。私の日本語が不自由だから、中国のスタッフとやりとりをする方が心地良い。場所が遠く離れすぎていない限り、中国人のスタッフを探すのは容易だ。(中国のSNSの微信、WeChatでは)様々な公式アカウントがある。採用広告を乗せるだけで、必ず沢山の人から連絡が来る。」

 

方さんの目標は一つの店を持つことではとどまらない。方さんのブランドを作ることだ。彼は既に二軒の加盟店を持つ。ブランドを成長させる為には自分が信用できる人を選んでいる、と彼は言う。

「そこの人は私達のタピオカミルクティーの作り方を覚え、私がたまに店を訪問する。そこのオーナー達はみんないい人で、小さな利益のために原価を減らそうとしないと思う。また、私達は大抵常連を作ろうとしているわけだ。新宿や池袋などの人の流れの多い場所ではまあまあな商品を作ればやっていけるけれど、私達は住宅地で商売をしている。絶対に品質に注意しないといけない。」

 

方さんにこれからのことを問うと、さらに店舗を増やし、パンダというブランドを成長させ続けたいとのこと。現在はもっと広い「本店」を建てる新しい場所を探しているそうだ。二十代未満の人にとっては、西荻窪の大人向けの成熟した飲食文化にはあまり魅力的なものがないようだ。世界の食トレンドに対する鋭い目を持つ方さんは、この隙間をチャンスとみたのだ。他の若い起業家同様、彼は自分のブランドを、たった一つの小さな店と西荻窪という小さな町から、さらに向こうの大きなビジネスへと拡大する野心を持っている。(ファーラー・ジェームス、康義金、ファーラー・セージ、木村史子、3月8日2020年)

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