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笑いが絶えない大人の縁日

低層のビルや控えめな人々の街。西荻窪は常に隣街吉祥寺の影にある。 西荻は 常連客が通う多くの小さな隠れ家的飲食店で賑わっている。一方、吉祥寺は多くの学生や観光客達が、話題になっている居酒屋やバーに足を運ぶ。では、 もし、吉祥寺で居酒屋経営に成功しているベテランが西荻にやってきたとしたらどうなるだろうか。 そこには、活気に満ちたもてなしと、サービス精神旺盛な演出に溢れた光景が見られるだろう。ここ、「居酒屋・すっぴんバカ笑い」は、吉祥寺の空気を西荻に持ってきた。店内にはお客達の笑いが絶えず、店員たちの威勢のいい声が響く。西荻ではこれまでにないタイプの居酒屋だ。

 

お店に入ると、勢いよく大きな声で「いらっしゃーいっ!!」と、小林淳(こばやしじゅん)さんが出迎えてくれる。小林さんは四十歳ですっぴんバカ笑いの社長である。地元・吉祥寺には鉄板焼き屋、じゅん粋を構えている。好きな飲み物はハイーボール。好きなことはお祭り。世間一般の人達と比べると社交的だ、と、満面の笑みで自己紹介をしてくれた。西荻の小さな飲み屋は口コミによってお客達を惹きつける傾向にある。 一方、吉祥寺にある多くの居酒屋は、賑やかな通りから直にお客を捕まえることができる。 バカ笑いの小林さんは、西荻には珍しい、吉祥寺風の積極的な商売文化を西荻に持ってきた。

 

元気がみなぎっている小林さんは、二十七歳からこの世界で働いている。

「十八歳から二十七歳まで土建業をやっていたんで。配管工ってやつ。二十七から七年間、居酒屋で修行させていただいて、それからです。」

そう話しながら、丁寧な慣れた手つきで鰹をさばいていた。魚のさばき方は料理職人の元で修行したのではなく、居酒屋で独学で身につけたという。

「前働いていた居酒屋もどんどんやれって。やる気のあるやつからやれって。

昔の日本って最初の三年間は魚洗いからとかですけど、今はそんなことない。うちもすぐやらすし。どんどんやれって。やんなきゃ覚えないもん。」

 

小林さんが西荻にやってきたのは二年前のことだ。バカ笑いの前、この場所には西介という居酒屋があった。

「ここの前のお店が二十何年間やっていた居酒屋だったんですよ。そこの大将が身体を壊してしまって。ここがチェーン店のお店になってほしくないとのことで、『個人で元気な奴はいないか』ってことで声かけてもらったんですよ。『淳、やんねーか。』って。西荻って町だし、大手が入るよりは個人で勢いがあるやつにやってほしいって。それで声をかけてもらったんですよ。まぁ、ここだったらいいなと思って、『やらしてください。』と言いました。」

そして、小林さんがこの場所にお店を開くことになった。前居酒屋の大将の願いは叶い、店は威勢のよさと元気で溢れた。お店がオープンした当初、周囲の店の人達からは「勢いがある人が来たらしい」と言われたそうだ。

 

バカ笑いのスタッフは皆、大きな声とハイテンションでテキパキと接客する。店内で流れる音楽も、スタッフの大きな掛け声にかき消されてしまう。

「僕のハートで温まるか、この火鉢の火で温まるか、どちらがいいですか?」などと、スタッフ達は冗談を交えながらお客達とコミュニケーションをとっている。

小林さんは、店にはお祭りのような楽しい雰囲気を出したいと話した。

「僕がお祭り好きだから。楽しい雰囲気が好き。酒場は元気で楽しい方が好きなんで。この店のコンセプトは、両店舗でやっているのは、『大人の縁日』です。本当のお祭りみたいにできたらなーって。 」

 

お客は二十代の若者より、三十代以降が多いそうだ。

「お客さんは三十代の人が多いかな。僕はね、あんまり若い子をターゲットにしていないっていうか。大人の人が来てくれるお店の方が好き。若い人が来るとやっぱりお店の雰囲気が若くなっちゃうし。逆に言っちゃうと、若い人たちが『ちょっとあそこ、行ってもいいのかなって。』って、ちょっと背伸びして行きたくなるような。大人の人達の大人の社交場としてあって、そこに若い子達が来るっていう雰囲気作りにしたいなって。」

 

 小林さんは、大人のお客というターゲットに合わせて、お酒にも強いこだわりを持っている。特に日本酒には力を入れ、種類を豊富に揃えながら、全種類手頃な五百円均一にしている。

「飲み物は日本酒が多いです。大人のお客さんもそれを目当てに来てくる人も多いと思います。日本酒ってどうしても高くて一杯七百~八百円で当たり前だから。僕はあんまりそういのが好きじゃないので、全部統一五百円で。若い人も飲みますけど、やっぱり大人の方が飲みますね。 やっぱり、六十歳の人がずっとビールとか飲まないし、ハイボールとかでもないし。そしたらやっぱり日本酒をチビチビ飲んでいますね。」

 

バカ笑いの料理は、日本酒に合うよう魚料理が中心だ。お店のカウンターにはその日に仕入れた新鮮なサザエ北寄貝サンマなどがキラキラと輝く氷の上に並んでいる。

「うちの魚は函館・北海道から送ってきてもらいます。あとは神奈川と築地。信頼している人たちから送ってきてもらっているんですよ。魚は毎日いいの送ってきてもらっています。」

一番人気のメニューは「刺し盛り」だそうだ。

 

小林さんは、魚以外に串焼きにも力を入れている。新鮮な魚が並んでいるカウンターの端には、火鉢が置かれている。その火鉢で串焼を焼く。小林さんは、この火鉢に対する特別な思いを話してくれた。

「火鉢はおばあちゃんの火鉢だったんですけど、これをどうしても使いたいなぁって。こっちのお店のコンセプトって、ここが決まってからどうやろうかなぁ、って決めたんで。向こう、鉄板だしなーって。でも僕はお客さんとフラットな関係が好きなので。なんかここで火鉢したらおもしろいなーって。」

独学で魚のさばき方を身につけた小林さんは、魚の串刺しも独学で研究を重ねた。

「そっから魚の串刺しの練習もしたし、家でBBQをやりまくって。店のコンセプトは大人の縁日だから、本当のお祭りみたいにできたらなーって。」

 

「おばあちゃんの火鉢」と同様、料理にも小林さんの家族との思い出が詰まっている。じゅん粋とバカ笑い、両店舗に共通するメニューはナスだ。

「あのナスは、僕のおふくろが毎日家で作っていて、それをうちの嫁が持ってきてくれています。」

「僕も作り方がわからなくて。僕が子供のときから家にある味だったんで、僕がお店を出すとき、おふくろにあれ出してよ、って。だから七年間毎日作ってくれています。喧嘩したときにはないんですけど。」

小林さんの居酒屋は、家族経営でもあることがわかる。

 

小林さんは、バカ笑いの常連客達と暖かい関係を築きたいと思っている。店の六割のお客は近所に住む西荻住民だ。スタッフ全員、飲み物の好みなど常連客達の情報を共有し、それを覚え、注文をもらう前に出すなど、細やかなもてなしを心掛けている。また、お店を通じて客同士が知り合いになり、「ここに来れば誰かと会えるだろうと。」と楽しみに来店する者も多くいるそうだ。

 

お客から小林さんに対しも温かい関係を築いている。小林さんは仕事しながらお客と一緒にお酒を飲むのが楽しみだそうだ。

「『飲みなよー』って言われたら、『オッケー!』って。一日十五杯ぐらい飲んでいるかな。」

魚をさばくカウンターの後ろには、大きな熊手が置かれている。その熊手の周りにはたくさんの一万円札が吊るされている。なんと、その一万円札すべて、小林さんが新しく熊手を変えるたびお客達がお賽銭としてくれるお金なのだそうだ。

「熊手って日本の商売の神様で、これを買うと、お客さんがみんな一万円、賽銭をくれています。今度は、十一月にまた新しい熊手を買いに行きます。毎年これが少しずつ大きくなっていくとお店が繁盛するっていう、昔からの日本の文化です。将来的にはすごくでかくなるんじゃないんですか。」

 

熊手がでかくなる…ビジネスが大きく成長する、というヴィジョンが目に見えている小林さん。

「コミュニーケーションが一番大事だと思います、居酒屋には。」

と強い信念のもと西荻窪で働いている。

 

休日には西荻の他の店に顔を出し、大好きなハイボールを飲み、個人営業者同士、コミュニケーションをとっているそうだ。バカ笑いの壁は、小林さんへの応援メッセージの寄せ書きでびっしり埋まっている。他店の経営者達がバカ笑いに飲みに来た際、書いていったものだ。

 

以前この場所にあった居酒屋・西介の大将と同様、小林さんはあまりチェーン店を好まない。

「チェーン店の方が安いけどあまり好きじゃないね。僕は飲みに行くのは個人店が多いかな。そっちの方が楽しい。」

近年、西荻窪にも多くのチェーン店がオープンしている。「大きい通りは、もうチェーン店ばかりです。」と小林さんは言う。

 

西荻にじわじわと広がりつつあるチェーン店の勢いにも負けず、すっぴんバカ笑いは今日も大きな笑い声とお祭りのような掛け声で、元気に勢いよく温かく、お客達を迎え入れている。( ファーラー・ジェームス、吉山マリヤ、木村史子 4月10日2019年)