企業レストラン、我が町へ

西荻の住民は、小規模な個人経営の店が数多く存在する町を誇りに思っている。その中で、果たして企業が経営する飲食店は西荻の飲食店コミュニティの一員となることが出来るだろうか。私たちは、それを見つけ出すためにある店を訪ねた。

 

「ライバルというより『共存』していけると思いました。」西荻窪への出店理由をこう語ったのは、駅から徒歩二分の賑やかな小さな交差点に位置するお洒落なワインバーHAGARE(ハガレ)西荻窪を運営する株式会社キャメルキッチンの犬飼亜弥子(いぬかい あやこ)さんだ。開放的なガラス張りで店内を覗くことができ、初めてのお客様も入りやすい。店の前にはテラス席も二つある。あえて飲食店が多いこの町に出店した経緯について、犬飼さんは西荻窪特有のある文化を指摘する。

「一店舗で終わりじゃないですよね。どこかに行ったら二店舗目にはしごする。そういう『はしごの文化』が西荻窪にはあります。皆さんが飲食店を使い慣れている。同じお店に長居するのではなく、色々なお店に行って楽しむ文化が出来ているなと思います。」

 

2021年6月に三周年を迎えたHAGARE西荻窪は、社員とアルバイトを含めた十五人ほどが働いている。半数が学生というアルバイトスタッフの中には、もともと客として通っていた人も複数いるという。店長の橋口長門(はしぐち ながと)さんは、フランス料理を学んだ経験がある。他店舗を行き来するエリアマネージャーが店舗に勤務することもあるそう。これは、店舗間で安定した味とサービスを提供するための策である。

 

企業が運営する飲食店であるものの、HAGARE西荻窪は地元コミュニティに上手く馴染んでいる。HAGARE西荻窪で提供される料理を語る上で欠かせないのが、道路を挟んで店の向かいに位置する小高商店という八百屋だ。買い物をする地元の人や学校帰りの小学生が集い、常に賑やかで地域の人に愛されている場所である。そんな八百屋との特別な関係について橋口さんがあることを教えてくれた。

「とても懇意にしています。最初からすごく良くしてくれて、これは西荻の地域性なのかなと思います。スタッフの誕生日も全部覚えてくれていて、みんなで一緒に祝ったりします。小高商店さんの野菜は、物がすごく良いです。リーズナブルで、融通も利かせてくれるので、ランチや夜のおすすめメニューは、小高商店さんのものを使っています。あちらからも『これあるけど今日どう?』とか、段ボールに入った大量のバジルをお勧めしていただいたこともあります。でも一般で買うより安くて、びっくりするくらいの値段で譲ってくれたので、有難く使わせていただきました。他のHAGAREの店舗は、決まった業者から野菜を仕入れているんですけど、うちは八百屋さんが向かいにあるからそこで仕入れようとなって。直接見て買っています。」

もう一つのHAGARE西荻窪にとって重要なのは、グループ会社との繋がりである。小高商店の野菜の他にグループ会社の株式会社キャメル珈琲が運営するカルディコーヒーファームの商品、パスタやトマト缶、チーズ、コーヒー、ワイン等の一部がHAGARE西荻窪のメニューに使われている。

「お客様に、『これはこういうアイテムで、カルディコーヒーファームに売っていますよ』というご紹介は結構しますね。お客様からも、『この今飲んでいるコーヒーってカルディコーヒーファームで売ってるんですか?』というようなお問い合わせもあります。」

 

セントラルキッチンはあるものの、そこで作られているのは焼き菓子やソース類など一部で、基本的にHAGAREのメニューは各店舗で調理していると犬飼さんは教えてくれた。橋口さんは、常連を飽きさせないためにメニュー構成を日々工夫している。

 

「ランチに関しては店舗によって毎日変わります。メニューを充実させて、なおかつ野菜は小高商店のものを使っています。毎日来る方や、週三だったり週末必ず来る方もいらっしゃるので。一番人気のメニューは、フレッシュチーズですね。これはイタリアから空輸していて、冷凍ではなくチルドなのですごくおいしいです。中にクリームの入っているブッラータは人気ですね。」

人気メニューである「フレッシュチーズ三種盛り合わせ」は、モッツアレラチーズ、ブッラータ、トレッチャが提供されている。

 

こだわりのワインも、一部のものは店長自ら選んでいる。また、その一部はカルディコーヒーファームでも販売されているそう。

「基本的に一日ずつ変わるものに関しては私が選んでいます。おすすめワインという、なくなり次第入れ替わるアイテムはその日によって違うものを出しています。カルディコーヒーファームで扱っていないレストラン向けに販売しているワインもあります。直輸入しているオーバーシーズというグループ会社があって、そこのワイン部の方たちと相談しながらHAGAREのメニューに合うものを選んでいます。」

 

お客さんの三十~四十%を常連がしめるというHAGARE西荻窪には、幅広い層の方が訪れるため、常にフレンドリーな接客を心掛けていると橋口さんは語る。

「ランチタイムは七割女性ですが、全体的に男性と女性は半々ぐらいです。ファミリー層と、カップルの方も多いですし、おひとりさまも意外と多いですね。一人で来られて、ちょっと軽くパソコンを開いてお仕事されるなど毎日利用される方もいらっしゃいます。仲の良いお客様に関しては少しフランクな感じで接客します。硬くない感じで新規のお客様でもフレンドリーに接しますね。すると、またリピートしてくれたりします。お店の宣伝としてインスタグラムも使いますし、西荻窪駅前のカルディコーヒーファームにパンのポスターを貼ってもらったりしています。外にメニューも貼ってありますし、店内が見えるので新規

でふらっと来られる方もいますね。」

 

犬飼さんもHAGARE西荻窪の明るい雰囲気について語ってくれた。

「下北沢や渋谷は近所に住んでいる方というよりかは会社員の方が多いんですが、ここは近隣にお住まいの方が利用してくださっているな、という印象ですね。HAGAREは一店舗目が下北沢なのですが、立ち上げたマネージャーの接客がカジュアルなスタイルだったので二店舗目、三店舗目もそれを引き継いでいった感じですね。」

 

コロナの影響を受ける中で、店長の橋口さんはお店を守る為に様々な工夫をしている。

「お酒を提供できない事はとても大変でした。夜の時間は落ち着いてしまうので、ランチタイムからカフェの時間に勝負をかけている感じですね。あとはテイクアウトやウーバーイーツですね。ただ、テイクアウトは前と比べると落ち着いてきています。割と外に出て、食べ歩く方も多いので。一番需要があったのは、二~四月ですね。家で飲まれる方も増えたので、前菜の盛り合わせやピザ、肉料理のテイクアウトをされる方が多かったです。今は、パンの販売も行っていて、世田谷の奥沢にあるCUPIDOという東京の百名店に選ばれたパン屋さんから毎朝焼き立てのパンが届きます。パンを買ったお客様が次にランチで来てくださったりもします。」

 

コロナ禍で厳しい状況が続く中、西荻窪の常連客の存在がHAGAREの経営を支えてきたことは間違いない。同時に、グループ会社の強みが相乗効果として働いていると言えるだろう。さらに、小高商店をはじめとした地元との繋がりが、経営を支える大きな役割を担っているのも確かだ。

日々、向かいの小高商店を中心に、商店を利用する他の店のオーナーたちとの交流が生まれる。犬飼さんは、「ずっとここで長くやってこられた方達が受け入れてくださっているのはすごくありがたいと思います」と私たちに話してくれた。まさにHAGARE西荻窪は、グループ会社と地元との双方と上手く繋がりながら、西荻窪の飲食店の一員になっているのではないか。(ファーラー・ジェームス・木村奈穂、木村史子、9月1日

2021年)

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